Shimizu Jio
Elements
Date: Friday March 16 – Saturday April 28 2012
PRESS RELEASE
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志水は、音、光、振動といった物理世界を構成する微細な要素(elements)の特性を拡大し、それらが引き起こす物理現象を視覚的に再現するアーティストです。
1994年から2006年まで、サウンドアーティスト角田俊也らとともに、制作のコンセプトを共にする共同体でありCDレーベルでもある「WrK」(ダブリュー・アール・ケー)を結成。当初から一貫して「時間上で展開される現象や出来事という刻一刻と変化する事象と、それに対する私たち自身の態度や認識の変遷」に焦点をあて、コンセプチュアルな作品、パフォーマンスを制作発表してきました。中でも志水は、物理世界における運動と変化に着眼し、不可視な現象を可視化する試みを行ってきました。近年では緑色、赤色のレーザー光線を用いた大がかりなインスタレーションを国内外の美術館で制作、またレーザー光線をガラスなどの透明な物質を通過させることで得られるモワレを印画紙にダイレクトに当てた写真作品など、レーザーの特性を拡張させた写真作品を発表しています。
この度の個展では、究極的に平行に直進するように整形されたレーザー光線を、表面が滑らかであるはずのガラス素材を通過・干渉させることで、精密なガラス素材が持つ微細な歪みによって光を拡張させ、壁面に美しいモワレ状の波形を描き出すインスタレーション作品を発表します。また、ガラス素材を通過したレーザー光線のダイレクトプリント写真作品を展示いたします。
概念としてのみ存在する「直線」への思考、固体としてのガラス素材の極微化によって生じる、原子・電子などのイメージなど、エネルギーの収縮と拡散をモデル化したインスタレーション作品は、観る者に科学と美、倫理についての思考をうながすことでしょう。
本展は、当ギャラリーにおけるゲストキュレーターシリーズの第一回目であり、志水にとって、国内では、約5年ぶりの個展となります。また、展覧会初日には、志水児王のパフォーマンスがございます。どうぞ、ご期待ください。
志水 児王
1966年、東京生まれ、東京藝術大学美術研究科大学院修了、現在は埼玉県を拠点に活動する。1994年、角田俊也らとWrK結成。2008年に文化庁在外研修員としてコペンハーゲンに移住。その後2010年末まで同地を拠点に活動。主な展覧会に、「六本木クロッシング」森美術館(東京 2004)、「釜山ビエンナーレ2008」釜山市立美術館(釜山 2008)、 「日本のサウンドアート」ロスキル現代美術館(コペンハーゲン、2011)他。
志水児王 Elements
東谷隆司
物理現象、自然界の原理(elements)、それらは時に美しく我々を陶酔させる。その一方、人間が科学から抽出し利用した理論・技術は ―例えば原子力がそうであるように― 時折、猛烈な暴力となって私たちを襲う。昨年の3月11日以降、放射能の恐怖に怯える私たち日本人は、科学の残酷さを否応なしに突きつけられた状態にある。
しかし科学や科学者に罪を問うことはできるのか。科学は、倫理観から解き放たれた、我々が存在する物理世界の要素(elements)を抽出し、自然界の法則を数値化・公理化させてきただけではないだろうか。
アーティスト・志水児王の制作態度は、科学者のそれに似ている。緑のレーザービームという、光の3原色の一つをシンプルな素材に透過、反射させることで、物理世界を構成する要素(elements)を、息をのむ視覚性を持った姿に変換する。
しかしそのレーザー光線も、実は戦時中に開発された武器であることを思えば、志水が組み合わせた装置が醸し出す美しさもまた、残酷な歴史の延長に位置するのだ。志水は倫理を問うてはいない。
それ故に、志水の作品は、時に科学の成果がそうであるように、美しさと残酷さの関係についての再考をも促す。しかし志水の作品が科学と違うのは、「美しさ」もまた、私たちが存在する世界の要素(elements)であることを気づかせてくれることだ。
ゲストキュレーター:東谷隆司 AZUMAYA Takashi
インディぺンデント・キュレーター。1968年、三重県四日市市生まれ、東京藝術大学大学院修士課程修了。世田谷美術館学芸員、東京オペラアートシティギャラリー、横浜トリエンナーレ2001スタッフ、森美術館キュレーターを経てフリー。主な展覧会企画に「時代の体温ART/DOMESTIC」世田谷美術館(東京、1999年)、「GUNDAM来たるべき未来のために」サントリーミュージアム天保山(大阪、他、2005-07年)他。釜山ビエンナーレ2010では、芸術監督を務める。