彦坂尚嘉「PWP: Practice by Wood Painting」

Hikosaka Naoyoshi, 3 Woodbox Art, 1992, acrylic on wood, 72.5 x 73.0 x 23.8 cm
Photo: Kimio Itozaki

彦坂尚嘉
PWP: Practice by Wood Painting

2023年10月14日(土)–11月25日(土)12月9日(土)まで延長
開廊時間:火−土(日月祝休)12:00-19:00

オープニングレセプション:2023年10月14日(土)16:00-19:00
トーク:11月4(土)16:00-17:00 富井玲子(美術史家)事前予約不要

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Photo by Keizo Kioku

Press Release

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MISA SHIN GALLERYは、10月14日(土)から11月25日(土)12月9日(土)まで、彦坂尚嘉による個展「PWP: Practice by Wood Painting」を開催いたします。

全裸で自室の畳の床と縁側にラテックスを撒き、一連の行為を写真に記録したパフォーマンス、「フロア・イベント」(1970年)で知られる彦坂尚嘉は、美術表現の制度そのものを根元から問い直し70 年代以降の日本のコンセプチュアリズムを主導したアーティストです。

1969 年、掘浩哉らとともに結成した「美術家共闘会議」(美共闘)の主要メンバーとして、美術の制度批判を追求した彦坂は、1970年から75年まで、「フロア・イベント」とそのバリエーションを展開した後、美共闘の活動の終焉とともに、「プラクティス」(直訳すると「実践」)のコンセプトの下に新たな探求に向かいます。彦坂のプラクティス論は、アリストテレスに参照したポイエーシス(制作)とプラークシスに始まり、毛沢東の実践論に根ざした実践と認識の連鎖へと偏していきます。その最終段階として、制作における実践と理論化を具現するのが、1977年から始まった、「プラクティス・バイ・ウッド・ペインティング」(Practice by Wood Painting; PWPと略)シリーズでした。

PWP、通称「ウッド・ペインティング」は、タイトルが明言するように、カンバスの代わりに木を支持体とします。ただし、平坦な木のパネルではなく、厚みや長さや幅が異なる木で凹凸のある不均等な表面を構成し、アクリル絵具の皮膜で覆う作品です。それはかつて床にラテックスを撒くことで一旦は否定し、解体した絵画の可能性を、カンバスという平面を用いることなく、絵画的ではない手法で追求するものでした。この作品シリーズによって彦坂は「フロアイベント」において拒絶し、一度は解体したメディアである絵画の可能性を、絵画的でないメディアを介して追求する「ポスト絵画の絵画」の実験へと踏み出していきました。

Hikosaka Naoyoshi, Minimal Art, 1992
Acrylic on wood, 29 x 53.1 x 9.2 cm
Photo: Kimio Itozaki

遡ること1960年代後半、当時多摩美術大学の学生だった彦坂は、国内外で急速に変化し、非物質化する現代美術の様相に衝撃を受け、1969年6月、バリケードで封鎖された多摩美術大学のキャンパスで開催されたグループ展で、キャンバスの代わりに木枠に貼られた透明なビニールシートを用い木枠から壁が見えたり、木製のパネルをフレームに挿入し壁を隠した作品や、ビニールシートを床に落とし木枠のフレームを壁に残した作品を発表します。これらの絵画の解体とも言える最初期の作品は、自立した物体としての絵画の自明性に疑問を呈しました。続く「フロア・イベント」シリーズでは最も自明な平面である住居の床をラテックスの皮膜で覆います。そして、「ウッドペインティング」ではカンバスはすでに無く、それに代わって登場した木の支持体上の絵具の皮膜へと派生し展開していきます。

Hikosaka Naoyoshi, Untitled (wood wall), 1969

彦坂は絵画を解体しますが、プラクティスのコンセプトの下に制作へ回帰し、絵画をポスト絵画として再構築するという挑戦的な展開をとげました。これは、1960年代に従来の芸術概念から離反しつつ、その後に絵画へと回帰した世界的な芸術動向と重なります。ただし、彦坂の「ウッドペインティング」は単なる「絵画」への回帰に甘んじるのではなく、あくまで「ポスト絵画」を引き受けた上で、美術の自明性を見つめていく視線を保持し、モダニズムの見えない構造や前提を浮き彫りにします。

本展では近年、作家のスタジオで新たに発見された、1980年代から1990年代の「ウッド・ペインティング」を12点を展示いたします。ミニマルなフォルムと色調、異なる形状の支持体の上に描かれた、透明絵具による多彩な表皮やフラクタルな形が特徴的な抽象画など、今まで公開されることのなかった彦坂の「ウッド・ペインティング」の、新鮮な魅力を放つ作品群を紹介いたします。

会期中の11月4日(土)には美術史家の富井玲子氏を招き、トークを行います。

Hikosaka Naoyoshi, Pencil and Burner (The Real), 1992
Pencil and acrylic on burned wood, 59.5 x 63.5 x 8 cm
Photo: Kimio Itozaki

彦坂尚嘉 Hikosaka Naoyoshi
1946年、東京生まれ。美術表現の制度そのものを根元から問い直し70年代以降の日本のコンセプチュアル・アートを主導したアーティストの一人。1967年多摩美術大学油彩科に入学、1969年に堀浩哉らとともに「美術家共闘会議」を結成。1999年「Global Conceptualism: Points of Origin, 1950s-1980s」クイーンズ美術館(ニューヨーク)他アメリカ国内3カ所巡回、2001年「CENTURY CITY」テートモダン(ロンドン)、2007年「Art, Anti-Art, Non-Art: Experimentations in the Public Sphere in Postwar Japan, 1950-1970」Getty Center, Research Institute (ロサンジェルス)、2013年「あいちトリエンナーレ」愛知県立美術館、2015年「Re:play 1972/2015―『映像表現’72』」東京国立近代美術館など国内外の展覧会に参加。

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2023-10-04|
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