無題 / Untitled
篠田太郎、小沢剛、高山明、池添彰、堀川紀夫
2025年1月18日(土)–2月15日(土)
オープニングレセプション:2025年1月18日(土)17:00-19:00
開廊時間:火−土(日月祝休)12:00-19:00
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MISA SHIN GALLERYは、戦後80年の節目となる2025年の最初の展覧会に、篠田太郎、高山明、小沢剛、池添彰、堀川紀夫によるグループ展「無題/Untitled」を開催いたします。21世紀が四半世紀となる2025年、未だ世界各地で戦争が繰り広げられている状況に、アーティストは戦争や過去の記憶とどう向き合ってきたのか、その表現で何を伝えようとしているのか探ります。
篠田太郎のビデオ作品SF – San Francisco or Science Fiction or How do I Understand the History (2013)は、アメリカの日本占領を正式に終結させたサンフランシスコ講和条約と、アメリカが日本に米軍基地を置くことになった日米安全保障条約が1951年の同じ日に調印された史実に基づき、サンフランシスコの旧軍施設とその周辺、そしてダグラス・マッカーサーが日本占領中に使用していた部屋で撮影されました。日米の歴史的関係を抽象的なアプローチで淡々と写す映像は見る人によって様々な印象や意味を喚起するイメージを作り出します。
ギャラリーの白い壁にあるQRコードにアクセスすると詩の朗読が聴こえてきます。高山明の「戦争画 / ヘテロトピア - 東京国立近代美術館編」は、戦争画の舞台となった国の詩人によって書かれた詩を聞きながら、東京国立近代美術館の収蔵庫にある戦争画を思い描くことで、物理的には目の前にない絵がギャラリーで「展示」される作品です。台湾の原住民族の詩人、ワリス・ノカンの詩「グラン フォン ブラン(素晴らしい白色)」は藤田嗣治の「薫空挺隊敵陣に強行着陸奮戦す」から創作されました。詩の中では戦争画に描かれている台湾人日本兵の1人としてそれを描いた藤田に語りかけます。ワリス本人による原文の中国語での朗読と、アーティスト・小沢剛による日本語訳の朗読を聞くことができます。
小沢剛の「す下降にンバンレパ兵神神兵パレンバンに降下す」は、鶴田吾郎(1890-1969)の戦争記録画《神兵パレンバンに降下す》を元に制作されました。鮮やかなブルーの空を背景に、白い落下傘が無数に舞い降りてくる印象的な絵は、1942年2月14日、オランダに統治されていた現インドネシアのパレンバン油田を、日本帝国陸軍・空挺部隊が、落下傘降下による奇襲作戦で占領した大勝利として描かれています。自分の手で戦争画という近代美術以降最大の闇をたどってみたかったという小沢は、日本軍の勇姿を描いたほとんどの戦争画では、銃口を向けている先になぜか敵が描かれていないことに気づきます。制作した絵は鏡面にすることで、銃口が自分自身に向かいます。つまり他者に向けた銃口は、時間をかけてやがて己に向かってくるのです。
池添彰はニューヨークを拠点に、ドローイング、ペインティング、ビデオ、パフォーマンスなど多様な分野で活動するアーティストです。作家自身と思われる裸体の人物や原始的な植物、実際には存在しない動物など、神話などから題材を得た多くのイメージが、タブローの中で絡み合っています。ヒエロニムス・ボッシュを彷彿とするその細部は、諸相が入り乱れる複雑な世界観に満ち、しばしば不条理な行為の連鎖の中でループし続ける人間の有様を呈しています。
1969 年 アポロ 11 号の月面着陸および月の石の採取に着想を得て始まった「地球の石」を郵便で送るシリーズで知られる堀川紀夫は、反戦の意思表示として1969 年ニクソン大統領、 1970 年に佐藤栄作首相に石を送っています。堀川の石のメールアートは、もの派に代表される石とは対照的に、個人の枠を超えて、歴史や 社会をとりこんだ概念の石として、外界へと雄弁に回路を開いていきます。 本展では、テートモダンのセンチュリー展(2000)に出展時、自分宛に送った石を展示します。
グループ展「無題/Untitled」は、それぞれのアーティストの作品が、重い主題を扱いながらも軽やかに距離や時間を超え、鑑賞者の視点による解釈に委ねることを促します。
みなさまのご来場をお待ちいたします。
篠田太郎 Shinoda Taro
1964年-2022年。東京生まれ。造園を学んだ後に作家活動を開始する。一貫して人間と自然の関わりを深く問う作品は、ドローイング、彫刻、ビデオ、 インスタレーションと多岐にわたり、国際的に高い評価を得ている。パブリックコレクションとして、森美術館、ルイヴィトン財団などに収蔵。さいたま国際芸術祭(2020年)、マーティン・グロピウス・バウ(ベルリン、2019年)、シドニービエンナーレ(2016年)、シャルジャビエンナーレ (2015年)、森美術館(東京、2010年)、広島市現代美術館(広島、2002年)など国内外の展覧会にも多数参加。
高山明 Takayama Akira
1969年埼玉県生まれ。2002年、演劇ユニットPort B(ポルト・ビー)を結成。実際の都市を使ったインスタレーション、ツアー・パフォーマンス、社会実験プロジェクトなど、現実の都市や社会に介入する活動を世界各地で展開している。近年では、美術、観光、文学、建築、都市リサーチといった異分野とのコラボレーションに活動の領域を拡げ、演劇的発想・思考によって様々なジャンルでの可能性の開拓に取り組んでいる。あいちトリエンナーレ(2019)、シドニービエンナーレ(2018)など国際展にも参加。
小沢剛 Ozawa Tsuyoshi
1965 年東京都生まれ。ユーモアを交えながら歴史や社会を鋭く批評する絵画、写真、映像、インスタレーションといった多様な手法の作品で知られる。90 年代初頭より《相談芸術》や牛乳箱を用いた超小型移動式ギャラリー《なすび画廊》を開始。1999 年には日本美術史の名作を醤油でリメイクした《醤油画資料館》、2001 年より女性が野菜で出来た武器を持つポートレート写真のシリーズ《ベジタブル・ウェポン》、2013 年より、歴史上の実在する人物を題材に、事実とフィクションを重ね合わせ、物語を構築する「帰って来た」シリーズを制作。国内外の国際展にも多数参加。
池添彰 Ikezoe Akira
1979年高知県生まれ、多摩美術大学絵画学科版画専攻卒業。2010年よりニューヨーク在住。自分自身の外側や手前と考える力と、自分自身を「文明化」することとのバランスをテーマに、裸体の人物や原始的な植物、様々な動物達など、有機的なイメージを多用する独特のスタイルで制作。近年の個展に A veces hay que bajar para poder subir, Proyectos Ultravioleta, Guatemala City(2019)Coconut Heads, Brennan and Griffin, New York (2018), またメディアシティーソウル(2024)にも参加。
堀川紀夫 Horikawa Michio
1946 年新潟県生まれ。1967 年、現代美術グループ「GUN(Group Ultra Niigata)」の結成に参加。主な展覧会に「Century City」テート・モダン(ロンドン2001 年)、「Art, Anti-Art, Non-Art: Experimentations in the Public Sphere in Postwar Japan, 1950-1970」Getty Center, Research Institute Exhibition Gallery(ロサンジェルス 2007 年)、「越後妻有アートトリエンナーレ」(新潟 2000 年〜)など。「荒野のラジカリズム グローバル60年代の日本の現代美術家たち」(2019 年ニューヨークJapan Society)など。